A day in autumn

久しぶりに河口湖の家に行った。
期待通り、玄関前の小さな庭に2年前に植えたもみじの木の葉が見事にオレンジ色に紅葉していた。その後ろの背の高いもみじもオレンジの葉を引き立たせるかのように楚々として真紅な葉をつけていた。そのハーモニーがまるで仲のよい夫婦のような感じであった。夏の間楽しませてくれた真っ白なアニベルも、秋の背景に合わせるかのように茶色やモスグリーンに変身していた。



車を降りるやいなや、前の家のご主人様がグレーの作業着に真っ赤な帽子をかぶって現れた。「お宅の左官屋さんを借りましたよ。お断りしてからお願いしようと思っていましたがなかなかいらっしゃらないので失礼致しました。」昔の常識的な作法を知っている人は気持ちがよい。
トランクから荷物を出していると今度はお隣りのご主人が現れ報告を受けた。材木の処理に困っていた私の大きな3本の丸太を自分の家に運び何か作る予定とのこと。前の家も隣りの家のご主人もここへいらしてはよく働く。それが又一つの楽しみや健康法なのだろう。
私の主人も息子もその趣味はまるでない。彼等とは違うタイプである。普通だったら、隣家のご主人たちのようなタイプの人がいてくれたら、と思うところだが、私の父もそうではなかったので、いろいろなタイプの人がいるのだな、と思うまでである。
先日、家で初めてお皿を洗っている主人の姿を見て涙が出てしまった。夫にはそのような事を望んでいないので何かびっくりしてしまったのだ。それも考え様によっては可笑しい話だが…。
それにしても今の時代私の息子までがそうである事では望まない。でも私の母が生きていた頃には、草取りや薪割を手伝っては誉められていたのに…。
結婚したらきっと変ると思う。



やっとご近所の挨拶も終わり、3週間ぶりに家に入る。
家中のカーテンを開けるとまず目に入るのはあの欅の木だった。黄金色の紅葉で、テラスには黄色の葉が厚く敷かれている。
早速、最近買ったカプチーノマシーンでコーヒーを作り、長女の焼いたアップルパイでいつもと変らない秋の紅葉を楽しむ。すぐ落ち葉を掃こうかと思ったが暫くそのままの自然を楽しむ事にした。家中の窓を全開にして秋風をたっぷり通してみたが、何か力が抜けてしまい、どこから手をつけたらよいか迷ってしまった。まだ、東京での生活とは違った郊外のペースに頭も身体も馴染まない。
メールを見ないようにと思ったが、どうしても開けたくなり見てしまった。案の定いろいろな用事が入っていて、気分的には休みなのに何故かホっとした。メールという便利な物ができて本当に助かる。
ホテルから今週の飾り付けはどうしましょう?と可愛い宴会予約の女性からのメールが入っていた。真っ赤のクロスに紅葉の葉っぱ一杯に花を飾り、クロスの上にも落ち葉をひく様にお願いした。菊の花は悲しい時のイメージが強いが。この菊の花でもいろいろな色を何色も重ねてみると、とってもゴージャスな大人の感じになるのだ。
玄関脇にある紅葉の葉の中に一杯白とエンジ色の小菊が咲いていた。それがヒントでアレンジメントのイメージはますます広がってきた。秋色アジサイと赤、紫、黄色、オレンジ、コーラルピンクまるでそばに花束が一杯あるような楽しい感じがしてきた。アジアンティックな器の中にれると更によくなる。秋の果物や実のものも一緒に飾って欲しい。そんなことをしている内に、やっとエンジンがかかってきた。
真っ青なコバルトブルーの空には黄金色の欅の木やイチョウの葉が良く似合う。又杉の木はブラウンに変わり。その濃淡の葉の色と空のブルーとの組み合わせは見事だ。真っ赤、オレンジ、黄色、コーラルピンクのもみじは、お互いに美しさを引き出す様にいきいきと見えた。太陽の暖かさを木のベンチから身体で感じていると急に風が吹いてきた。大きな欅の木の黄色の葉っぱが何百と私の顔にめがけて雨の様に音を立てて落ちてきた。天使のいたずらのような葉っぱのダンスが目の前で行われる。何と素晴らしい楽しい一時。まさに声をだして笑いたくなるほどの一瞬のできごと。こんな事は想像しても起こらない。
母の愛していたこの土地に帰ってくると。ご褒美のように都会では味わえない感激をもらう事ができる。母が生きていた時に同じ感激を一緒になぜ味わう事が出来なかったかと思うと悲しくなる。



キッチンに入ってポテトサラダ、きのこと牡蠣のピラフ。仲良しの友人のお店で買ったチーズや、生ハム、オリーブ、ワインもこんな風景に似合いそう。河口湖の家の近くに は友人が出来てきた。お互いに邪魔をしない程度にお付き合いをしている。ちょっとパンがあるから来ない?とか、大根が取れたとか、アニベルが満開よ!とかそれぞれぞれが子供に戻り普段着のままの姿で行ったり来りをする。
この家の私の楽しみ方のひとつは、太陽の陽を追いかける事。朝の陽はテラスの上の東屋やまわりにある木の葉を透かして爽やかに見せる。パンとジャム、温野菜とポーチ・ド・エッグとコーヒー。新聞を片手に持ち、暫くこの中での時間を楽しむ。また、朝の日はバスルームの白いカーテン通して私を楽しませてくれる。透かし絵のごとく紅葉をわざとモノクロの様に陰として見せてくれる。
色の全ての基本は自然から教えられる。 私がここへ来るのももっと複雑に色を感じ、それを仕事のエッセンスにし、又本当の幸福って何かを感じさせられるからだ。
人生の楽しみ方はは人それぞれだが、私の家族や友人が楽しんでくれる一つの場所になりつつあることはうれしい。

来週は家族みんなで最後の秋を楽しむ予定。

Written by Akemi Sugawara