急に香港へ行くことになった。
その週はいろいろなイベントがあり、肉体の疲労はかなりのもので、気がついたらいつになく無口になっていた。
幸いアメリカのクライアントのイベントが大好評だったと報告され、どうにか元気を取り戻し、旅に出ることが楽しみに変わった。出発前夜も遅くまで働いていたため十分な用意は出来なかったが、とりあえず香港ステイのイメージを頭に浮かべながら洋服やアクセサリーを鞄に詰め込んだ。
旅の準備は仕事柄、自慢ではないが人の数倍早いと言われている。
飛行機に乗り込んだときは全てから開放された気分になり、まるで森林の中のハンモックに寝ているようなリラックス感に浸った。到着前にはスッカリ元気を取り戻し今回泊まるホテルリッツカールトンがある香港島へ向かう。
今回の目的は、ホテル視察と美味しい物を食べること、そしてアンティークをみること。いつもグランドハイアットに泊まっているが、今回は違うホテル。6星のグランドハイアットとの違いが楽しみ。
折角体重を少し落としたにもかかわらず、できるだけいろいろな種類の食にトライしなければならないのは苦痛だったが、スパやウォーキングで自分の健康管理にも注意し、美味しいものを沢山食べてみることにした。中国茶を沢山飲んで油を流す努力も。
毎年家族で何回か訪れている香港も、知らないうちに家族に頼っている。分っているつもりでも一人で動くとなると心配。いつも自由な時間がないため細かいところまでなかなか観察できないが、今回は住んでいる気分で自由な時間をつくり贅沢を味わうことにした。 人間ウォッチングをしたり文化の匂いを感じてくると、スッカリ日本を忘れて好奇心というエンジンがかかってくる。着るものも食べる物、考え方もその国に似合うものがあり、旅は本当に楽しい。
洋服の色合いは、香港もミラノの旅と同じように、ブライトな色がこの夏とても似合うように感じる。東京では派手すぎる花柄のブラウスを着て町を歩いてみたが、結構周りと調和して居心地がよい。
パーティ等でのヒント、絵画の飾り方、照明の色合いや形の楽しさ、ホテル支配人からの贈り物、石鹸の香り、マナー、音楽、人々の生活など数え切れないぐらいの多くの魅力を感じる。それと同時に悪い部分も見ることになる。
今回の旅にはアクセサリーで洋服に変化をつけるため、大好きな蝶々や白いくちなしの花のものなど沢山持ってきた。カメリアは“シャネル“の花として有名だが、私もこの20年もの間、コサージュのカメリアを沢山集め続けてきた。先日NYであったシャネルのパーティでもブラック&ホワイトのイメ―ジの中に沢山のカメリアの花が室内装飾や洋服にアレンジされ、素晴らしく感動したとNYの友人から聞かされた。
初日は白のサマーセーターにカメリアをつけたバッグで、2日目は紺色とショッキングピンクのチャイニーズジャケットに相性のよいアルマーニ製のビーズでできたピンクの大振りな蝶々のブローチをつけて招待された会員制チャイニーズレストランに出向いたが、空間の雰囲気にぴったりだった。その店のアートコレクションは一流で、その国の歴史そのものを語っており、飾りつけや色合いが完璧に調和されていた。何年も前から大事にしていた海外のインテリア雑誌から切り取った記事に載っていたレストラン、それがこのレストランだった。銀行の古い歴史ある建物の中にある香港らしいエキゾチックな重みが、鮮やかにセクシーに調和されていた。何とも言えない英国のテイストとアジアのテイストが気持ちよいほどに見事にマッチし、深みや歴史を感じさせる。
又訪れたいと思わせる何かがこのレストランにはある。それはそのレストランを訪れている人たちのマナーや教養などが影響している。西洋の美しさとアジアの美しさ、それをミックスする楽しさは、世界の人たちが共通して感じる何かがある。私はアジア人なので、食べ物や住む空間の好みなどは西洋よりはアジアに近い。それだけにこのエキゾチックな魅力にはヨーロッパやアメリカに行くよりも感動するものがある。また日本を離れると日本のよいものを新たに感じとる。意識して日本のものにも挑戦したい。
子供のときから祖母や母から習い事としてお茶、お習字、日本画、三味線、お花、日本舞踊など数え切れないぐらいのお稽古事をさせられていた。いかにさぼれるか苦労したが、今になると懐かしく思い出し、感謝しなくてはならない事だ。下手ながら子供のときに習ったことは自然と身体に身についていて、今でも先生の言葉が脳裏を掠める。
昨年秋にNYから来た友人と娘とで香港の骨董市に出かけ、カーペットや瀬戸物を見て歩いたが、今回も何か掘り出し物はないかと一人で歩いてみた。
交渉するととてつもなく安くしてくれる。何か交渉しているうちに、あまりの違いに嫌気がさしてきた。その交渉の仕方も今はまだ勉強中で、何時の日か好きな物に出会ったときに役に立つかもしれない。
年をとった母親と30歳近い息子と2人でお茶セットを売っている小さな店に入ってみた。
“良い人“は会った瞬間に感じられる歳になった。母親を助ける静かな息子と口数の少ない質素な母親がお茶を出してくれた。美味しいとは言えないが、その優しい何気ないサービスが疲れていた私の心をくすぐった。小さな汚い椅子に座り込み、いろいろ世間話をしているうちに、蓮の花が描かれているお茶碗に目が留まった。決して高価な物ではないが、これを使って家族や友人達と嬉しそうに飲んでいる姿が何となく見えてきた。
3人の子供が何時の日にか思い出に使ってくれるようにと手を真っ黒にして丁寧に選んでみた。
リバーサイドに面した部屋から見る夕日や朝日の色合いは時間によって感じる物が違う。静かに日が昇る太陽や沈んでいく夕日は、今までもいろいろな場所で見てきた。いろいろな思い出が沢山あるがこれからもいつも感動して見ていきたい。大好きな香港の旅は今回も沢山の知識やエネルギーを与え、これからも私のライフスタイルに反映させたいと思っている。
色の仕事から衣食住に発展させてきた私の仕事も今年で20年。カラーアナリストがいない時代からみれば、今は数え切れないほどの数に増えた。一人でもこの仕事の重要さを知って頂く為に一人でも多くの人々への伝道師になりたいと思う。
<お知らせ>
香港風テーブルセッティングを見ていただく会を企画しております。詳細は近日中にWhat's newでお知らせ致します。