HONG KONG VISIT

コスモプロフ会場内の化粧品の容器の写真。色とりどりのサンプルを飾って自社商品、技術力をアピール。

先日コスモプロフのために久々に香港を訪れた。コスモプロフとは年2回、春はイタリア、秋は香港で開催される世界最大の化粧品のショウである。香港で開かれるショウには2年ぶりに訪れたが、2年前に比べるとショウ自体の活気は少なく感じられた。最近は展示してもコピーされるだけだと展示ブースを設けず、近隣のホテルで個別にクライアントを招待し商談する企業も多くなってきたことも一因かもしれない。いずれにしろ、世界各国の化粧品業界の人たちが一同に集まるので会場近辺のホテルや成田からの飛行機は業界の人たちで一杯になる。

上:Armani Fioriのウィンドウディスプレイガラスの花器に一つの花材のみを活けるスタイルが世界中で流行。下:Armani Caffeのエントランス、テーブル装花。

通常このショーの間は、朝から晩まで足が棒になるまで様々な展示ブースを見てまわり、各国の取引先と商談したりと忙しく、せっかくの香港でもなかなかゆっくりショッピングにくり出す時間もない。今回も忙しいからと半ば諦めて、事前に何も調べずに行ったのだが、意外にも少し時間ができたので、早速会場近くのマンダリンホテルの隣のビルに行ってみた。新しいそのビルには、Georgio Armani, Emporio ArmaniのほかにArmani Fiori,Armani Casa、Armani Libri、Armani Cosmetica、Armani Caffeなどアルマーニの花屋、家具屋、本屋、化粧品店、カフェが入っていて、まさにアルマーニワールド。本屋さんでは、こんな国、こんな物からアルマーニはインスピレーションを得てデザインをしているのかしらなどと思いを馳せたりしながらゆっくりと本を選ぶことができる。カフェはとてもモダンで宇宙的なデザイン。

同じビル内に、エントランスにピンクの大輪のシャクヤクがたっぷりと活けられた、なんだか気になる空間がひとつあった。外の黒っぽい壁面にはただkimrobinsonという文字が浮かんでいるだけ。なんだろう?インテリアかブライダルか何かコンサルティングファームか何かのオフィスかしら?

とてもintimateな雰囲気のする不思議なKimrobinsonのエントランス。マリリンモンローの時代をイメージしたフラワーモチーフの壁紙のあしらわれたLOBBYにはお花が一杯。

隣のプラダで何のお店か聞いてみたところ、有名なヘアサロンだという。と、話していた矢先に、そこから、中国となったいまの香港では珍しく優雅ないでたちの香港マダムが二人でてきた。日本に帰国したら髪を切りに行こうと思っていたけれど、どうせならここで試してみようかしら、と、花の優しい香りに誘われて店内へ。

とてもチャーミングなレセプショニストの説明によると、このサロンにはたった二人しかアーティストがいないという。トップアーティストのKimは香港やロンドンのVIPや女優のスタイリングを多数手掛けているらしい。見せて頂いたメニューにあったKimのFirst Consultation Feeは日本では考えられないほど値段だが、トライする価値は絶対あるという。Kimは不在で彼がどういう人なのかもわからないのだが、見せて頂いたサロンの雰囲気が気に入ったので予約してみることにする。運良く翌日の10:00に予約がいれられた。自分の気に入ったヘアカットの写真を持ってきてといわれ、夜、買ってきた雑誌をスクラップしてみる。

翌朝うきうきしながらサロンを訪ねる。レセプショニストのWei Leeに導かれ奥の部屋にいく。美味しいカプチーノとシナモンクッキーを頂きながら、雑誌の切り抜きを一緒にチェックする。前髪はこのくらいないとダメな気がする、と告げると、そうなのよ、わたしもよ!と意気投合。もっとイメージをクリアに伝えるために、と雑誌を何冊も持ってきて一緒選んでくれる。良いヘアスタイリストを求めてシンガポールまでいってしまったりする行動派の彼女はKimに初めて切ってもらった時には50枚のスクラップを持っていったという。

お薦めのヘアクリームを購入した際にいれてくれたKimのペーパーバッグ。エントランスのイメージとぴったりな花のモチーフを女性のシルエットに重ねて。リボンやシルエットのバックグランドの微妙な色はサロンの壁の色とあわせてある。

大体選び終わったころにKimが登場。物静かで穏やかな印象のKimに自分のイメージを伝え、彼の意見も伺う。私の髪は多く、しっかりしているのでドライカットをする。Kimがカットに取りかかると同時に小鳥のさえずりのする心地よいクラシック音楽がかかり、緊張が解けていく。

切りながらいろいろな話をした。ふっと彼が笑うのでなにかと聞くと、「どうして君が知らないヘアサロンに飛び込んできて予約したのかと思って。恐くなかったの?」と笑う。確かに不思議と不安でなかった。彼の好みで30年代風インテリアに整えられた美しく花をいけたエントランス。実は3日前にオープンしたばかりだという未完成のサロンだが、Kim自身に会わなくても、素敵なレセプショニストの説得力、こだわりと暖かさが感じられるインテリアのせいか。

髪質にあわせて日本から取り寄せたシャンプーを使ったり、柔らかくスタイリングするコツを丁寧に説明してくれる。カラリングをしたほうがよいか尋ねると不必要なカラリングは勧めない。30年以上香港に在住し、風水も学んだKimは自然と私の特徴を活かしたエレガントなカットをしてくれた。Kimがいうそれぞれの人に似合う髪型の理論は私達のイメージコンサルティングの考え方と非常に重なる。

これはじつは髪を切る前の写真。台湾の仕事先の方たちに海沿いの海鮮料理レストランに連れていっていただきました。あまりにも中華っぽい眺めで皆大喜び。

たいていどんなに上手なヘアスタイリストに担当してもらっても髪を切った直後ははやく家に帰って自分でスタイリングし直したくなることが多い。でもKimの場合は違った。とても自然なのにドラマティックなのだ。今の状態でも十分満足なのだが、3ヶ月後が本当は完成といわれると、また3ヶ月後に行ってみたい気がしてしまう。最後に勧められた髪がしなやかにまとまるヘアクリームを購入。NYのもの。ヘアクリームを入れてくれたバッグもKimのデザイン。バラに囲まれたエレガントなサロンにぴったりな美しいバッグ。把手のリボンも上質なシルクで色や質にも細やかなこだわりが静かに感じられる。カットが終わったあと街を歩くと不思議と人が振り返る。香港の人は日本人より他人をしっかりと見るがそれでもやはり昨日までとは全然違う。カットのせいかな、と少し嬉しくなる。そういえば、Kimにカットしてもらった女性は皆"A man of dream"に出会うと言われているとWei Leeがいっていたが、効果は如何に?!私達のイメージコンサルティングも Kimのコンサルティングのように、連続する日常をふわぁっと明るく楽しくさせる、また慣れてしまった自分をあらたな気持ちで見直し慈しむ、スイッチの様な役割であったらよいなと思う。

ヘアカットのあとは隣のマンダリンホテルのカフェでアフタヌーンティーをいただいてみる。ここは異国情緒漂う雰囲気のとても香港らしいイメージのカフェで、メニューも非常に伝統的な正統派アフタヌーンティーのほかにちょっとした中華料理も楽しめる。コスモプロフの会場ではせわしなく、コーヒーばかりだったせいか、マンダリンの温かなダージリンは格別美味しく感じられる。アフタヌーンティーセットをオーダーすると、銀の3段重ねのトレイにティーサンドウィッチ、スコーン、ケーキ、チョコレートなどがこぼれ落ちんばかりにいっぱいに盛られて運ばれてきた。そのどれもがとても美しく綺麗で、ほんの短い時間だがほっとして生き返ったような気持ちになった。アルマーニのカフェはもっとモダンでミニマルなデザイン。アルマーニのシンプルなデザインも刺激的で面白いが、マンダリンでの古き良き、豊かで暖かな午後の時間もアナログ派の私にはやっぱり捨て難い。

←マンダリンホテルのカフェにて。入り口近くのケーキ台にはとても美味しそうなケーキやチョコレートがたくさん。ランプ、床のモザイクタイル、ガラスのエッチングと細部までとてもかわいい。

Text by Reiko Sugawara