10日間のデジタル日記体験
今年のゴールデンウィークは日本にいながらにしてまるで異国への旅をしたような気分を満喫し、あっという間の10日間であった。そもそもそのきっかけとなったのは、来月カシオ計算機から発売される世界最薄デジタルカメラ『EXILIM(エクシリム)』との出会いだ。日頃からNTVの番組の下見、インテリアやテーブルコーディネイト、ホームページ用の資料などでデジタルカメラは必携のアイテム。だが、いくら小型化してきたとはいえ、荷物の多い日やバッグが小さいパーティなどへの外出時には持っていこうか置いていこうかとても迷う。そして、なぜか持って出かけなかったときにかぎって、必ず素敵な人や体験にめぐり合い、ああ、持ってくればよかった!とまさに後悔先に立たず…。そんな私に、トレインの八木さんから「今度カシオから名刺サイズのデジタルカメラが発売されるのですが、それに先立って10名の方々にそのデジタルカメラでデジタル日記をゴールデンウィークに撮っていただきたいのですが…」。新しい物も八木さんも大好きな私は2つ返事でお受けしながらも「名刺サイズっていったって本当かしら?
まぁ、きっととっても小さいのね。」と実は心の中では思っていた。しかし、初めて『EXILIM』を見たときは本当にびっくり!まさに名刺サイズなのだ。世界最薄11.3mm、重さわずか85!名刺入れよりも小さい!日記撮影中にもポケットにいれてどこにいれたか忘れてしまって思わずあわてたことが何度あったことか。
まさに"Wearable Card Camera"なのだ。
この『EXILIM』を使って、1つテーマを決め10日間で最低50枚の写真を撮影し、発売発表会のときに写真家、放送作家など様々な分野の10名の写真をおのおのモニターにて展示するとの企画だった。さて、「テーマといっても…。撮っているうちに見つかるかな?」気楽に考えて、パチ、パチ。まず一日めの撮影(?)を終えた。が、1日の終わりになって焦ってきた。あまりにも“Wearable“なので、いつでも、何でも撮れてしまうのだ。でもこれではとりとめがなさすぎる。とりたてて写真が上手でもないカラーアナリストという職業の私に依頼してくださった以上、私ならではの日記にするとしたらどんなテーマなのかしら、と思った瞬間、八木さんから渡された発表会の招待状の封筒が目の前に浮かんできた。私の大好きな鮮やかな赤の封筒。よく見ると『EXILIM』の小さな小さなロゴにも赤が入っている。これだわ、この赤をテーマにしよう。ということで"Something with Red”をテーマに撮影を進めることにした。
今年のトレンドカラーの見地からいうと、赤はメインではないがサブカラー的に存在している。お店にいっても沢山みられるブルー系や白、紺、黒などのアイテムなかにほんの少し赤い商品がアクセント的に存在している。そんな少量の赤にも敏感になってしまうのは私が子供の頃から赤が大好きだからに違いない。私の周りにある赤い物、そして赤いだけでなく何か素敵な、美しいもの、感じるもの、面白いもの。これらを求めて、毎日『EXILIM』とともに過ごし5月7日に八木さんにSDカードをお渡ししてどうにか無事撮影終了した。
テーマを決めて撮影してみていろいろと面白い体験をした。まず、撮影は周りの協力なしでは出来ないということ。自分を撮ろうとしたら当然誰かにお願いして撮ってもらわなければならない。誰かを撮る際には許可をいただかなければならない。花や静物は関係ないかというとそうではなく、その日のお天気が関係したり、撮りたいと思ったときにその周囲の状況はどうなのか。人間の目は無意識のうちに見たいものだけにフォーカスすることができるが、カメラは操作しないと非常に客観的に公平に周囲全体をとらえてしまう。だから撮ってみてはじめて、被写体そのものとその周囲の物との関係に気がつかされることがしばしばあった。全てがそれぞれ独自に存在しているようでじつは目に見えない相関関係があるのだ。例えばとても美しい赤いバラが咲いていても後ろにごみ捨て場があって写真にとれない、真っ赤なスポーツカーが通っても乗っている人が残念ながら絵にならない…などなど。そのビルディングそのものだけでなくその背景の空の色との組み合わせがなんとも綺麗だった、というような体験を重ねていくうちにいつもだったら見逃してしまいそうな風景の一こま一こまを大切に見るようになった。
だから10日間の最後の方は楽しいけれど少々疲れてきた。見るもの、触れる物すべて大切な題材となりうるのだから、ずっとアンテナを張って緊張し、感動しつづけているのだから。よくNYにいくと見るもの、感じる物全てをなるべく沢山吸収しようとして体全体が感覚器になったようにセンサーが拡大していく。それと同じような状況がデジタルカメラを手にしたことで起こったのだ。しかもごく普通の私の生活の中で。カメラを通して人とのコミュニケーションにも敏感になる。小さなカメラを見てびっくりして話かけてくる見知らぬ人と友達になったり、撮影に快く協力してくれる人がいて人の優しさを再確認したり、物作りに関係した仕事をしている人は損得なしで企画を楽しんでくれる。撮る人によって同じ場所にいてもフォーカスする視点が違ってそれもまた面白い。
昨年9月11日のNYのテロ事件以来、アメリカでは"Cocooning"(繭化)という家庭回帰、家族重視の現象が起こっている。そのため、そのため不況やテロ勃発の後であるにもかかわらず私のクライアントのEthan Allen(米家具、インテリア会社)も堅調な伸びを見せている。予期もしない異常現象が起こってはじめて、いつも存在しているのが当たり前と思って意識もしていなかった、自分を取り巻いていた日常のなかの大切な物や根源的な幸せに気が付き、家族、友達を大切に思い、その人たちと過ごす時間や家庭という空間を見直そうと人々が思い始めている。テロ事件は起こっていないが不況が続く日本でも同じ現象が起こっている。だからリフォーム番組が流行っている。NTVの番組で様々なお家に伺い拝見する。
どの方も予算はこんなご時世だからかけられないけれど、どうにかよりよい時間を過ごせるように改装したいとおっしゃる。住み手の慣れてしまった目や体には感じないことも、初めて見る私たちには余計なものや整理したほうがよいところが目に入ってくる。ちょうど、客観的なカメラの眼のように。そして、依頼者の方のご希望を伺い、その点にスポットをあて空間にリズムや驚き、楽しさを加え、ここでこんな風に感じて生活していただけたら気持ちよいだろうなと想像しながら作業していくのが楽しい。本当に不思議なことにどんな空間も手をかけ、心をこめればまるで新品の空間や家具のように輝き、美しく明るく部屋に存在する物全てがオーケストラのように調和して支えあい音楽を奏でてくるのだ。そして写真を撮っていても、お店のディスプレイをしても、インテリアのリフォームをしても思うのは、最後にはその空間に人が存在しなくては、結局完成しないということ。そこにいて、そこにいることを人が楽しんではじめてその空間やモノの存在意義がある。人、家族がいてはじめてまわりのものが意味をもってくるのだ。トム・クルース主演の『バニラスカイ』という映画のなかで、朝目を覚ました主人公はいつものようにNYの街中に車で出かけていく。しかし何かが変。不気味。そう、あれだけ人が行き来するNYの街に人が人っ子1人いないのだ。
どんなに何を持っていてもそれではまったく意味がない。
"Wearable Card Camera EXILIM"を手にして、物を撮る。何が心地よいのか、もっとこうしたほうがこれが活きてくる、この組み合わせは意外だけれど綺麗、実はこういうものにも興味があるみたい…。一つの色にテーマを絞ったことによって色眼鏡をかけて物を観察する様々な発見。「これは『通常、普通』の生活」、「これは『特別、非日常』」と自分で勝手に整理している時間も空間も考え方によってはとてもRitualな時間になる、わざわざ外国に行かなくたって立派な旅になってしまうことを痛感した。カメラはその旅へのパスポート、次の世界へ通じる扉をひらく鍵の役割を果たしてくれたのだ。
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